人気ブログランキング | 話題のタグを見る

グレゴリー・ベイトソン<その1・イントロ>

グレゴリー・ベイトソン(1906~1980)はアメリカの文化人類学者である。グレゴリー・ベイトソン<その1・イントロ>_e0077577_23535015.jpg

彼の主要な研究は、バリ島の文化の研究から始まり、学習理論とコミュニケーション理論を手がけるなど多岐にわたる。

特に重要な業績としては、コンテクストという概念を組み合わせた学習理論を体系立てたこと、そしてそこからダブルバインド理論を生み出したことだろうか。

彼の思想は一般に知られていないかも知れないが(ベイトソンを知らなかったのは実は僕だけだったりして)、彼の打ち出した思想は、数十年経った現在でも十分実用に耐えるものであると思われる。

では、彼の研究内容について紹介していきたいと思う。



1.生協の白石さんが「癒し系」なわけ

ほとんどの方は「生協の白石さん」をご存知だと思うが、知らない方のために説明を。グレゴリー・ベイトソン<その1・イントロ>_e0077577_05344.jpg

「生協の白石さん」とは、東京農工大学の生協の職員さんであり、生協への要望を書いた「一言カード」に対する、ウィットと優しさに溢れる切り替しが巷で話題を呼んでいる。

さて、その白石さんがなぜ巷で人気を博しているのか?僭越ではあるが、ベイトソンの考え方を用いて、白石さんが「ウケるわけ」について考察したいと思う。



白石さんのコメント

Q.愛は売っていないのですか…?
A.どうやら、愛は非売品のようです。もし、どこかで販売していたとしたら、それは何かの罠(わな)かと思われます。くれぐれもご注意ください

Q.単位が欲しいんです。
A.そうですか、単位が欲しいですか。私は単車が欲しいです。お互い頑張りましょう。


ここでは、この2つのコメントを例に挙げたいと思う。

ベイトソン曰く、ユーモアとは複数のコンテクスト(文脈)を重ね合わせることだそうである。

このコミュニケーションにおいて、2人の関係は、「客と店員」という関係で終わらず、「一緒に悩む仲間」というコンテクスト(文脈)が重なっている。
この一瞬の立場の転換に、メッセージを見た方は、「あれっ?」と不思議に思い、いつの間にか悩みをくくりだされてしかもアドバイスまで受けていることに対して、思わず微笑むのではないだろうか。

このような、「客と店員」というコンテクストだけでなく、別のコンテクストををかぶらせる(この場合は「一緒に悩む仲間」)、というのが白石さんのユーモアの秘訣なのではないかと思う。

ちなみに、白石さんが使っているであろう手法がもう一つある。それは家族療法で用いられる「外在化」と呼ばれる技法で、何か問題が生じたときに、その原因を特定の人の中にではなく、外部に見出すというものである(多分、この定義でいいと思います…)。

内田樹もブログの中で、「すぐれた医者は決して患者を責めない」と書いている。ウチダ先生が歯の治療をしてもらったときのお話であるが、その部分を以下に引用させていただく。

『「患部と患者」を共犯関係にくくりこむよりは、「患部」をワルモノにして、「患者と医者」が共同原告団として「歯」を責める、という話型は治療の方法としてはたいへんに効率的なのである。
「なんてひどい歯なんでしょう。これじゃ、あなたも大変ですよね。気の毒に…」と言ってあげれば、患者は「歯の悪行」を逐一報告すべく、医者のもとにいそいそと通うことを厭わなくなる』


上の白石さんの2番目のコメントでは、「単位を取得できないのはあなたの責任だ」という切り替えしではなく、「あなたは単位が欲しいけどまだ取れてないんですよね、自分も単車が欲しいけど…」というように、責任の所在を外部にくくりだしている。

白石さんの癒しを含んだウィットは、外在化のコンテクストを重ねることから来るものなのではないかと思うのである。

白石さんのファンの方へ、「この分析は間違っている」と思われる方もおられると思いますが、私的分析ということで、どうか一つご海容のほどを。


もう一つ例を。ダウンタウンのコントで、こんなのがあった。

松本「最近ファンに尾けられてる気がするんや」
浜田「ふんふん」
松本「この前も落とし穴にはめられそうになってな」
浜田「落とし穴かい!」
松本「いやな、道の真ん中にパイナップルが置いてあってな…」

これも、「ファンに憧れられる松ちゃん像」と「ファンにバカにされる松ちゃん像」が一瞬で交錯するところに面白さがあるのではないかと思う。そりゃ、バレバレな落とし穴を作って松ちゃんを待ち受けてるって時点で、松ちゃんを侮ってるってことになるものね。

このギャップを、コンテクストの交差であると見抜いたところにベイトソンの凄みがあるといえるだろう。そのコンテクストについて、次のブログでもう少し詳しく書いていきたいと思う。

(2005.12.18.10:10大幅改訂)
(2005.12.19.19:20改訂)


追記:笑いについては、V.S.ラマチャンドランが「脳の中の幽霊ふたたび」で最新脳科学の見地から分析を行っている。それについてはまた後日にでも…(後日ばっかりですみません)。
by ishikawasss206 | 2005-12-17 23:46 | 心理学・現代思想


<< 文脈病 心理学サークルの打ち上げ >>